旭川・飛騨の地場型家具生産における、デザインの用いられ方と地場アイデンティティ確立に果すデザインの役割

堀 達哉、清水 忠男

Utilization of designin the furniture production on the regional industry and
the roll of design for establishing the regional identities at Asahikawa and Hida.
Hori Tatsuya ?AShimizu Tadao

研究の背景と目的

地域の特性を生かした産業である地場産業は、素材や技術の面でも産地以外の要素が入り込み、地域特性との関わりが希薄となっている。本研究はデザインと地場産業との有意義な関わり方を把握しようとするものである。このため地場において生産者がどのようにデザインを用いているのか、また産地としてのアイデンティティ確立にデザインがどのような役割を果たしているか、これら2点について明らかにする。調査対象として、地場型の産業の中でもデザインへの依存度の高い家具生産を選び、旭川と飛騨とを対象地として調査を進めた。

調査の対象

両産地は産地組合加盟者数(50社台、出荷規模(35 0億円前後:平成6年)で比較的似ていながら、産地としての成立ちは、歴史のある飛騨と新しい旭川、家具工業が街全体の産業に占める割合いの高い飛騨と地方中核都市として多様な産業を抱える旭川、街自体についても、中世以来の様式を残す飛騨と新興の開拓都市旭川、外来の人の出入りは、産業に占める観光の割合の大きい飛騨と、道北道東観光の拠点都市とはいえ中継的存在である旭川というように、産地存立の背景を少なからず異にする。しかし、97年には家具見本市で共同出展するなど、ともにデザインに対する意識も高いと考えられる。

なお、今回の調査での立場別の回答数は表1のようになっている。

表1 調査に対する回答数

地場産業としての家具生産におけるデザインの用いられ方

地場産業の生産者活動の中にデザインがいかに組込まれ、また評価され、生産者とデザイナーがいかに関係を築いているか、地場の企業がデザインに何を求めているのかを調べた。その結果、表2のような点が明らかになっ

表2 デザインの用いられ方に関する調査結果

旭川・外部デザイナー飛騨・外部デザイナー

開発先行調査
製品企画
製品のデザイン
生産用設計
販促企画
販促ツールデザイン
製品へのユーザー評価調査
CI

旭川・内部デザイン職飛騨・内部デザイン職

開発先行調査
製品企画
製品のデザイン
生産用設計
販促企画
販促ツールデザイン
製品へのユーザー評価調査
CI

図 生産の回答「外部協力デザイナー/社内のデザイン職に依頼する業務」

上から、旭川飛騨

企業のイメージ向上
他社との差別化
製品の売上げ増
新たな販路の拡大
支持ユーザーの獲得
開発要員の意識改革
生産要員の意識改革
その他
変化なし
悪影響あり

図2 生産者の回答「デザインが生産者に与える影響」

た。旭川では、多くのデザイナーと関係を結び、多様なデザインを引出すことを期待していた。デザインは製品づくりのプロセスに組込まれ、企業イメージ確立を促す道具と捉えていた。

飛騨では、少ないデザイナーと関係を結び、特定のデザインイメージを強める働きを期待していた。デザインはこれまでの製品づくりで育んだ様式を更新する手段だと捉えていた。